【タイトル】雨ハザアザアト降リ、アノ男ハ消エタ 【登場人数】2人:♂1 ♀1 【登場人数】男1:男 - タクシードライバー       女1:女 - タクシーの客 【ジャンル】ホラー・シリアス 【目安時間】10分〜15分 【あらすじ】土砂降りの雨に濡れた女性を乗せたタクシードライバー       消えた恋人を探す女       不思議な一夜が始まる 【備 考 】 BGS 環境音 雨 男 「深夜の土砂降りの雨の中、傘も差さずに道端に立つ白い服を着た髪の長い女が、私の車に合図を送ってきた。 タクシードライバーである私は停まらないわけにはいかないのだが、気が重い。 いくら急な天気の荒れ方だったとしても、雨に打たれるまま道に立つ女だ。 場所も良くない。女が立っている後ろの建物は、夜の世界の店が多く入っている雑居ビルだ」 SE ドアの開く音 環境音:雨の音C・I 男 「あまりシートを濡らさないでくださいね」 SE ドアの閉まる音 環境音:雨の音C・O 男 「どちらまで?」 女 「……練馬まで」 男 「駅前でよろしいですか?」 女 「ええ」 ト書き 間 女 「ふふ、ふふふふ……」 男 「気持ちの悪い薄笑いを浮かべている女は、やはりまともではないのだろう。 しかし、これは仕方のない事だ。なぜなら、女は皆、頭がおかしいからだ。 あの女も頭がおかしかった。あんなに助けてあげたっていうのに……」 男 「……災難ですね。急な土砂降りに当てられて。何かあったんですか?」 女 「……聞いてくれますか? 運転手さん、私の話、聞いてくれるんですか?」 男 「え、ええ」 女 「2週間前にね、恋人が消えたんですよ」 男 「恋人が、消えた?」 女 「ええ。私、その男にお金を貸していて。たくさん貸してました。大金です。 でも、消えちゃいました。しかもその男、他に女もいたんです。それも何人も」 男 「そうですか……」 女 「大金。大金だったんです。彼が、どうしてもって言うから。 女も、たくさん、たくさん、たくさん、たくさん……」 男 「はぁ……」 ト書き 沈黙 雨の音が響く BGS 雨の音 煽り 男 「2週間前っていうと、殺人事件がありましたよね。ちょうど2週間前に」 ト書き 女から返事はない 雨の音が響く BGS 雨の音 煽り 男 「本当にひどい雨だ。最近多いですよね。こんな、突然の大雨が」 女 「……この間、近くで事故がありましたよね。ちょうどこんな雨で、女性を一人乗せたタクシーが」 男 「ええ、知ってます」 女 「そのタクシーの運転手は、横転した車に挟まれて、体の上下が切断されたらしいですね。 どんな気分なんでしょう。体が2つに千切れるのって」 ト書き 男は無言 女 「あの男も、2つに千切っちゃえば良かったかな」 ト書き 沈黙 雨の音が響く BGS 雨の音 煽り 男 「ひどい目にあったのなら、それを学習しなければなりませんね」 女 「……え?」 男 「だから、ひどい目にあったことを学習して、次に活かさないと」 女 「過去のことになんて、出来ると思います?」 男 「いや、実はですね、最近、あなたと同じ様な状況の女性が身近にいましてね。 男に騙されて、大金を貢いでしまって、捨てられたって。 だから私、結構な額を援助しまして。お店でもかなり使いました。ノルマが達成出来ないと辞めさせられるからって」 女 「……お店? 水商売の人?」 男 「ええ、お水の娘でした。悪い男に引っかかったんですよ。 彼女の負債はかなり大きかったらしく、私みたいなしがないタクシードライバーの貯金なんてすぐに底を尽きてしまいました」 男 「そしたらね、彼女、もう迷惑はかけられないって、一方的にいなくなっちゃったんですよ」 男 「でも、やっぱり心配でして。探しましたよ、彼女のこと。そしたら、そのお店の系列店にいましてね。様子を見てみたら、そこのお客さんから援助を受けているようでした」 女 「それって……」 男 「でもそれだけじゃまだ心配だから、もう少し調べたんですよ。そしたら彼女、ホストと同棲してました」 女 「ホスト……」 男 「でも彼女、どうもそのホストに貢いでるみたいで。しかもそのホストが、ひどい男なんですよ。同じように貢がせてる女が何人もいました。だから殺しました」 女 「え?」 BGM 雨の音 ホラーBGM クロスフェード 男 「これで彼女は救われると思ったんですよ。彼女を騙していたホストから解放されて。 でもこのことを彼女に伝えたら、すごく怯えられてしまって。男に騙されて捨てられたのは嘘だって言いました。だから彼女も殺しました」 女 「え、あ、あの……」 男 「次の日に乗せたお客はキャバ嬢でした。そいつも自分のお客に嘘をついてました。だから殺しました。 その次の日に乗せたOLは、恋人に隠れて二股をかけているようでした。だから殺しました。 さらにその次の日に乗せた女子高生は、見知らぬ男をチカンに仕立てあげて金銭を要求しているようでした。だから殺しました。」 女 「あの、ここ、どこですか? 雨で見えづらいですけど、都心じゃないですよね? あ、あの……」 男 「女は皆、頭がおかしいんですよ。だから私、女性のお客さんが乗ったら、殺すことにしたんですよね」 女 「ひぃっ!」 男 「ホストも彼女もキャバ嬢もOLも女子高生も、皆この辺りに埋めたんですよ。最初はたいへんでしたけど、学習しましたから。今はもう、スムーズに処理できる様になりました」 女 「あのっ、誰にも言いませんから、私、誰にも言いませんから。降ろして下さい、お願いします。降ろして下さい!」 ト書き 男は無言  女 「お願いします、降ろして下さい。私は男の人を騙したりなんてしてません。私は騙された方です。だから、だから……!」 男 「どうして降りたいんですか? そんなに私の運転が不安ですか?」 女 「え?」 男 「今度は大丈夫ですよ。学習しましたから」 女 「何を言って……」 男 「ほら、見えますか? これでもちゃんと運転出来るんです。学習したから大丈夫です。体が2つに千切れていても」 女 「いやぁっ!!」 SE ホラーBGM:C・O SE:カミナリの音 BGM雨の音:C・I 大きく ト書き 沈黙 雨の音だけが響く BGS 雨の音:F・0 小さく 女 「……あの、すみません。事故のこと、変な風に言ってしまって」 男 「……しかし、女が皆、頭がおかしいのなら、あのホストはまともだったのでしょうか?」 女 「え?」 男 「何人もの客を騙し、貢がせ、最後には風俗に落としてました。風俗に落とすと、紹介した人間にお金が入るんです。 しかもそこはタチの悪い店で、ほとんどヤクザの直営店でした。落とされた女性は、辞めることも出来ない様でした。 まあ、風俗に落とされてなお貢いでいた様ですから、辞めるという考えもなかったのかもしれませんが」 女 「そんな……」 男 「だから私は、あの男を殺しました。2週間前、お客さんが立っていたあのビルから出てきたところを捕まえて」 女 「2週間前……。あのビルから……?」 男 「でも彼女は私に怯え、罵りました。私は、あの男を殺すべきではなかったのでしょうか?」 女 「……あの男に騙されていたから、助けられたことに気付かなかったのではないでしょうか。 私も、気づきませんでした。あの男がいなくなってようやく、気付きました。 ……あなたの、お陰です」 男 「……私は、きっと彼女にそう言ってもらいたかったのでしょうね」 BGS 雨の音:F・O 男 「着きましたよ。ね、学習したでしょ?」 女 「あなたは、これからどうするのですか?」 男 「……もう一度考えてみようかと思います。学習しなければいけませんからね。あ、お代は結構ですよ」 女 「ありがとう、ございます……」 SE ドアが開く音 ドアが閉まる音 女 「タクシーを降りて振り返ると、その姿は忽然と消えていました。 あの運転手が言っていた事が本当かどうかはわかりませんが、私はもう彼を探そうとは思いませんでした。 そして、あのタクシーに出会うことも、もう二度とありませんでした」 BGM BGM:C・I ト書き 終わり