連番 | 役・種類 | セリフ・内容 | 備考・メモ(書き込み可) |
1 | ト書き | Scene1 公園 | |
2 | SE |
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|
3 | タケ |
「青い空、白い雲、さえずる小鳥とあざやかな緑。
談笑する主婦、元気に走り回る子供たち。
そして平日の真昼間に、そんな公園の様子をベンチでボーっと眺めている俺。
こんなにのんびりした時間って、いつ以来だろうな。
ずっと仕事仕事で、近所の公園がこんな風景だったことも知らなかった。
悪くないな、こういうのも」
| |
4 | ミキ | 「あれ? タケ兄? 何してんのこんな所で」 | |
5 | タケ | 「うおっ! な、なんだミキか、驚かすなよ」 | |
6 | ミキ | 「なんだじゃないよ、あんたどうしたのこんな平日の昼間っから」 | |
7 | タケ | 「お前こそ大学はどうしたんだよ」 | |
8 | ミキ | 「今日の授業は午前だけだったから」 | |
9 | タケ | 「いいねぇ大学生は気楽で」 | |
10 | ミキ |
「昼間っからこんなとこで日向ぼっこしてるあんたには言われたくないよ。
で、いったいどうしたのさ。仕事は?」
| |
11 | タケ | 「ああ、ミキにはまだ言ってなかったか。辞めた」 | |
12 | ミキ | 「え!?」 | |
13 | タケ | 「辞めたんだよ、仕事。んで、ボーっとしてた」 | |
14 | ミキ | 「え、ちょっと、どうして? 何かあったの?」 | |
15 | タケ | 「まぁ、色々とな」 | |
16 | ミキ | 「色々ってなにさ、色々って。ほら、ちょっと詰めて」 | |
17 | タケ | 「なぜ隣に座る」 | |
18 | ミキ | 「あんたの悩みを聞いてあげようってんじゃない。感謝しなさい」 | |
19 | タケ | 「一回り下の小娘がよく言う」 | |
20 | ミキ | 「一回り上のおっさんがウジウジすんな」 | |
21 | タケ | 「……わかったよ。でも、ちょっと重い話になるぞ?」 | |
22 | ミキ | 「そんなことは気にしなくていいから」 | |
23 | タケ | 「まぁ、簡潔に言うとだな、会社が経営難で資金ショートしそうになってな」 | |
24 | ミキ | 「とても重そうだ!」 | |
25 | タケ | 「で、俺が解決案を作らなくてはならなくってさ、どうしても人員削減も必要だったんだ」 | |
26 | ミキ | 「リストラされたの?」 | |
27 | タケ |
「いや、俺がリストラする方だったんだよ。んで、自分の部下も直接話して退職してもらってさ。
色々とやって会社は落ち着いたんだけど、なんか疲れちゃって」
| |
28 | ミキ | 「それで辞めたの?」 | |
29 | タケ | 「まぁね」 | |
30 | ミキ | 「なるほどねぇ」 | |
31 | タケ | 「言葉にしてしまえば、大した話じゃないんだけどな」 | |
32 | ミキ |
「いやいや、あたしは会社員の事はわからないけどさ、大変だったってのはわかるよ。
自分の部下をリストラするとか、精神的にすり減へるだろうねそれは」
| |
33 | タケ | 「そうだな。結構きつかった」 | |
34 | ミキ | 「それで疲れたってのもあるんだろうけど、タケ兄の場合はあれだな」 | |
35 | タケ | 「ん?」 | |
36 | ミキ | 「人をリストラしておいて自分だけ会社に残るわけにはいかない、みたいな気持ちでしょ?」 | |
37 | タケ | 「……そう思うか?」 | |
38 | ミキ | 「あんたは昔から変に生真面目なところがあるからね」 | |
39 | タケ | 「お前は昔から、変に鋭いところがあるよな」 | |
40 | ミキ |
「タケ兄の事は昔からよく知ってるしね。
気にしなくてもいいことに変に責任感を感じたり」
| |
41 | タケ | 「そうかもしれないな」 | |
42 | ミキ | 「でも、もう一つ何か理由があるんじゃない?」 | |
43 | タケ | 「え?」 | |
44 | ミキ | 「そんな感じがする。例えばその、部下だった人とかと何かあった?」 | |
45 | タケ | 「いや、何もないよ」 | |
46 | ミキ | 「そう?」 | |
47 | タケ | 「ああ、何もなかった……」 | |
48 | ミキ | 「……ひょっとしてその部下の人って、女性?」 | |
49 | タケ | 「え? あ、ああ、そうだよ。よくわかるな」 | |
50 | ミキ | 「その人の事が、好きだった?」 | |
51 | タケ | 「……かもしれない」 | |
52 | ミキ |
「……なるほどね。誰もいない机、見慣れた風景から消えてしまった姿。
居なくなってやっと気付いた、ああ、俺はあの人の事が好きだったんだ」
| |
53 | タケ | 「見てきた様に言うな」 | |
54 | ミキ | 「で、その人は年上でしょ」 | |
55 | タケ | 「なんでお前そんなことまでわかるんだよ!」 | |
56 | ミキ | 「わかるよ! あんたは昔っから年上ばっか!」 | |
57 | タケ | 「な、なんで怒ってんだよ」 | |
58 | ミキ | 「怒ってないよ!」 | |
59 | タケ | 「そ、そうですか」 | |
60 | ミキ | 「まぁ、そんなことはいいんだけどさ」 | |
61 | タケ | 「自分で言ったんだろ」 | |
62 | ミキ | 「とにかく、あんたは自分を責めちゃだめだよ」 | |
63 | タケ | 「わかってるよ」 | |
64 | ミキ |
「わかってないよ。わかってないからそうやって悩んでる。
タケ兄のそういう真面目で人を思いやれるところは良いところだと思うけどさ」
| |
65 | タケ | 「別にそんな立派な人間じゃないさ」 | |
66 | ミキ |
「そんなことないよ。でもね、聞いて?
タケ兄が誰かに申し訳ない気持ちがあっても、自分を不幸にしちゃダメだよ」
| |
67 | タケ | 「それは……」 | |
68 | ミキ |
「あたしにはその仕事の大変さはわからないけどさ。
でも、その会社の人も、落ち込んでるあんたを見て喜ぶわけじゃないよ」
| |
69 | タケ | 「……そうだな。心に留めておくよ」 | |
70 | ミキ | 「うん、そうしなさい」 | |
71 | タケ | 「悪いな、気を使わせちゃって」 | |
72 | ミキ | 「気にしなくていいよ。ま、暫くはゆっくり休むといいさ」 | |
73 | タケ | 「そのつもりだよ。とりあえずやりたいこともないしな」 | |
74 | ミキ | 「でも、毎日そうやってボーっとしてるのもなんだかね」 | |
75 | タケ | 「いや俺もそう思ってさ、最近は高校の時の部活に顔を出してるんだ」 | |
76 | ミキ | 「落ちぶれた自分から目を逸らすために、学生相手にOB気取り? さいてー」 | |
77 | タケ | 「ちげぇよ! 変に邪推するな!」 | |
78 | ミキ | 「ごめん冗談。うん、いいと思うよ。そういえば今でも顧問の先生と飲みに行ってたりしてたね」 | |
79 | タケ |
「まぁな。それで近況を報告したら色々頼まれてな。
俺もだいぶ気分転換になってる。それに、面白い奴もいるしな」
| |
80 | ミキ | 「面白い奴? 部活に?」 | |
81 | タケ | 「ああ、学生だけど中々しっかりした奴がいてさ、結構話が合うんだ」 | |
82 | ミキ | 「珍しいね、あんたが人を褒めるのって」 | |
83 | タケ |
「そうか? まぁ、それだけいい奴ってことさ。
あ、そうだ、お前に紹介してやろうか? ミキの浮いた話とか聞いたことないからどうせフリーなんだろ?」
| |
84 | ミキ | 「失敬な! ケンカ売ってんの? てか、その必要はない」 | |
85 | タケ | 「え?」 | |
86 | ミキ | 「いるんだなぁこれが。可愛い年下の彼氏が」 | |
87 | タケ | 「マジか!?」 | |
88 | ミキ | 「マジ」 | |
89 | タケ | 「年下とか、一体どこでたぶらかしてきたんだ?」 | |
90 | ミキ | 「人聞きの悪い事言うな! むしろたぶらかされちゃった? みたいな?」 | |
91 | タケ | 「いいから詳しく教えてくれよ」 | |
92 | ミキ | 「夏休みに友達と山にキャンプに行ってさ、そこで川があったから魚釣りをしたんだ」 | |
93 | タケ | 「お前釣りなんて出来たのか」 | |
94 | ミキ |
「出来ないよ。だからどうしたらいいか困っててさ。釣竿はレンタル出来たけどどうすればいいかさっぱりで。
そこへ彼が「よかったら教えましょうか?」って声をかけてくれて……。
釣ろうと思ったらあたしが釣られちゃったってわけだね。あっはっは」
| |
95 | タケ |
「オヤジかお前は。でもそうか、ミキもとうとう……。
そいつはちゃんとした奴なのか?」
| |
96 | ミキ |
「大丈夫、年下だけど頭が良くてしっかりしてて、優しくて。
……ちょっと似てるなって思った」
| |
97 | タケ | 「似てる? 芸能人か何かにか? 意外とミーハーだな」 | |
98 | ミキ | 「そんなんじゃないけど、まぁいいや」 | |
99 | タケ | 「あ、ひょっとして今日もデートとか?」 | |
100 | ミキ | 「デートじゃないけど、待ち合わせしてるよ」 | |
101 | タケ | 「え、マジで?」 | |
102 | ミキ | 「うん」 | |
103 | タケ | 「どこで?」 | |
104 | ミキ | 「ここで」 | |
105 | タケ | 「いつ?」 | |
106 | ミキ | 「今から」 | |
107 | タケ | 「おい、じゃあ俺と居たらまずいだろ!」 | |
108 | ミキ | 「大丈夫だよ、多分」 | |
109 | タケ | 「大丈夫じゃないだろ! とりあえず俺はどっかいくよ。色々悪かったな」 | |
110 | ミキ | 「待って!」 | |
111 | タケ | 「どうした?」 | |
112 | ミキ | 「その……、今日はその彼氏から呼び出されたんだけどさ」 | |
113 | タケ | 「うん」 | |
114 | ミキ |
「なんか今、家の方が大変とか色々あるらしいんだけど、ちょっと嫌な予感がするんだよね……。
タケ兄さ、一緒にいてくれない?」
| |
115 | タケ |
「いやいやいや、マズイだろそれは。今日は世話になったから力にはなってやりたいけどさ、
例え従兄でも彼女が他の男と一緒にいたらいい顔しないだろ。色々あるんならなおさらだ」
| |
116 | ミキ | 「そうだよね……。ごめん、変なこと言って」 | |
117 | タケ | 「いや、いいよ。まぁなんだ、頑張ってな。何かあったら俺も話くらいは聞くからさ」 | |
118 | ミキ | 「うん……」 | |
119 | タケ | 「それじゃ、またな」 | |
120 | ミキ | 「……」 | |
121 | ト書き | Scene2 公園 | |
122 | BGM |
|
|
123 | キヨ | 「ミキさん、ごめん、待った?」 | |
124 | ミキ | 「あ、キヨ君。大丈夫、偶然従兄と会ってさ、ちょっと話してたから」 | |
125 | キヨ | 「ああ、例の従兄さんか……」 | |
126 | ミキ | 「うん……。で、その、話って言うのは?」 | |
127 | キヨ | 「えっと……まだ時間は大丈夫?」 | |
128 | ミキ | 「うん、バイトまではまだ少しあるから」 | |
129 | キヨ | 「そう……。あのさ、実は、その……」 | |
130 | ミキ | 「う、うん。なに?」 | |
131 | キヨ | 「別れて欲しいんだ……」 | |
132 | ミキ | 「……どうして?」 | |
133 | キヨ | 「……そうしなければならないって思って」 | |
134 | ミキ | 「家の事? それとも、あたしが嫌いになった? あたしがなんかしちゃった?」 | |
135 | キヨ | 「嫌いなんかじゃない! ミキさんは何も悪くないよ」 | |
136 | ミキ | 「じゃあどうして!?」 | |
137 | キヨ | 「ミキさんは悪くない。僕が悪いんだ」 | |
138 | ミキ | 「ならちゃんと言って! 言ってくれないとわからないよ」 | |
139 | キヨ | 「……ごめん」 | |
140 | ミキ |
「あ、待って! ……何にも言わずに行っちゃうなんて。
……そっか、やっぱりそういう話だったんだね。
……もう、バイト行かないと。……はは、こんなときに、バイトだなんて」
| |
141 | ト書き | Scene3 バイト先 | |
142 | BGM |
|
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142 | SE |
|
|
144 | ミキ | 「おはようございます……」 | |
145 | ヨウコ | 「おはよう、ミキちゃん……、ミキちゃん? どうしたの?」 | |
146 | ミキ | 「ヨウコさん……」 | |
147 | ヨウコ | 「なんか様子が変よ? 何かあったの?」 | |
148 | ミキ | 「うん、ちょっと……」 | |
149 | ヨウコ | 「まだお仕事まで時間はあるし、よかったら話してみない?」 | |
150 | ミキ | 「でも、迷惑じゃ……」 | |
151 | ヨウコ | 「気にしないでいいわ。私もミキちゃんの力になりたいの」 | |
152 | ミキ | 「……ありがとうございます。実は、かくかくしかじかで……」 | |
153 | ヨウコ | 「なるほど、そういう事だったのね」 | |
154 | ミキ | 「え、今のでわかったんですか!?」 | |
155 | ヨウコ | 「あたりまえよ。私も伊達にさんじゅうちょめちょめ年も女やってないんだから」 | |
156 | ミキ | 「悲しくなりませんか? そのセリフ」 | |
157 | ヨウコ |
「なるわ、とってもね……。いえ、そんなことはいいわ。
それで、ミキちゃんはどうしたいの? このまま別れる?」
| |
158 | ミキ | 「あたしは……」 | |
159 | ヨウコ |
「相手の子は、ミキちゃんを嫌いになったとは言ってないのよね?
ミキちゃんは、その子の事はどう思ってるの?」
| |
160 | ミキ |
「あたし、ずっと好きだった人がいて……。でもその人はあたしの事を全然そんな風に見てくれなくて、諦めてたんです。
そんな時に彼に出会って、なんだか似てるなって思って……。
そういう風に考えていたことが、わかっちゃったのかもしれない」
| |
161 | ヨウコ | 「……そう。その子は、好きだった人の代わりだった?」 | |
162 | ミキ |
「そんなことない! 付き合い始めてから色々知って、一緒にいて楽しくて……。
別れて欲しいって言われて、すごく辛くて、こんなに悲しい気持ちになるなんて思ってもなかった」
| |
163 | ヨウコ | 「そっか。それじゃあもう一度会わないとね」 | |
164 | ミキ | 「え?」 | |
165 | ヨウコ | 「その男の子がどういう気持ちなのかはわからないけど、もう一度会ってはっきり理由を聞かないとね」 | |
166 | ミキ | 「でも、会ってくれるかどうか……。それに、怖いです。はっきりと好きじゃないって言われたら……」 | |
167 | ヨウコ | 「それでも、会わなきゃだめよ。どんな言葉だったとしても、会って聞かなかったらきっと後悔する」 | |
168 | ミキ | 「ヨウコさん?」 | |
169 | ヨウコ | 「……昔ね、付き合ってた人が、私にその人の子供が出来た時に急に居なくなっちゃったの」 | |
170 | ミキ | 「それって……」 | |
171 | ヨウコ |
「ただの遊びだったのか、何か深い理由があったのか、未だにわからないわ。
だから、ずっと何も出来なかった。戻ってくると信じればいいのか、諦めればいいのかもわからなくて……
その後はもう、子供を育てるだけで精一杯だったしね」
| |
172 | ミキ | 「ヨウコさん……」 | |
173 | ヨウコ |
「流石に今はもう、戻ってくるとか考えてないわ。むしろ急に現れたら困っちゃう。
今は子供さえ居てくれれば満足だから。
でもしばらくは辛かったわ。わからない事っていうのは、わからないから消化されずにずっとそのまま心に残っちゃうの。
ミキちゃんには、そういう後悔をして欲しくない。
それにミキちゃんなら、どんな結果でもちゃんと受け止めることが出来ると思う。
その時に辛かったら、またいつでも私が話を聞いてあげる」
| |
174 | ミキ |
「……はい、ありがとうございます。ヨウコさん。
あたし、もう一度会ってちゃんと話してみたいと思います」
| |
175 | ヨウコ | 「うん、頑張ってね。後悔なんかして、私みたいにいつの間にかおばちゃんにならないようにね」 | |
176 | ミキ | 「そんな、ヨウコさんは全然若いし綺麗だし、素敵ですよ! あたしなんかより男の人は放っておかないです!」 | |
177 | ヨウコ |
「ありがと。そうだったら嬉しいけどね。でももういい歳だから…… 。
子供も大きくなってきたし、そういうのは相手にとっても負担だと思うから」
| |
178 | ミキ | 「……ひょっとしてヨウコさん、好きな人がいるんですか?」 | |
179 | ヨウコ | 「え? ど、どうして?」 | |
180 | ミキ | 「いえ、なんかそんな気がして。好きだけど身を引いてたのかなって」 | |
181 | ヨウコ | 「……ミキちゃんって、なんか鋭いところがあるわよね」 | |
182 | ミキ | 「いえ、そんな……。自分の彼氏の考えてる事もわからないわけだし……」 | |
183 | ヨウコ | 「あのね、ミキちゃん、気休めを言うわけじゃないんだけどね」 | |
184 | ミキ | 「なんですか?」 | |
185 | ヨウコ | 「男の子って、基本的にバカよ?」 | |
186 | ミキ | 「え、ば、バカ?」 | |
187 | ヨウコ |
「そうよ。うちの子もね、普段はおとなしいんだけどたまに変に意固地なったりしてね。
詳しく聞くば、変な事にこだわってるの。自分で勝手に何かを背負い込んじゃったりして」
| |
188 | ミキ | 「あ、それはわかるかも。あたしの従兄もそんなところあります」 | |
189 | ヨウコ |
「そうでしょ? しかも、言葉にすることがカッコ悪いみたいな事を考えてたりするのよね。
体は大きくなってきても、まだまだ子供で……」
| |
190 | ミキ | 「でも、ヨウコさんの子供ならきっと素敵な人になりますよ」 | |
191 | ヨウコ |
「そうね、そうなってくれるように私も頑張らないと。
……もうミキちゃんは仕事に入らないとよね。ごめんね、時間取らせちゃって」
| |
192 | ミキ | 「いえ、そんな! ヨウコさん、本当にありがとうございます。あたし、頑張りますね」 | |
193 | ヨウコ | 「ええ、頑張ってね。それじゃあお先に失礼するわね。お疲れ様」 | |
194 | ミキ | 「はい、お疲れ様です」 | |
195 | ト書き | Scene4 ヨウコ・キヨ宅 | |
196 | BGM |
|
|
197 | ヨウコ |
「ミキちゃん大丈夫かしら。無事に仲直り出来ればいいけど……。
さて、遅くなっちゃったから早くお夕飯の支度しないと」
| |
198 | キヨ | 「おかえり」 | |
199 | ヨウコ | 「ただいま。ごめんねキヨ君、遅くなっちゃって。すぐにご飯作るから」 | |
200 | キヨ | 「いや、大丈夫だよ。なにかあったの?」 | |
201 | ヨウコ | 「ちょっとね、パート先の子の相談に乗ってたの。それで遅れちゃった」 | |
202 | キヨ | 「そう……。あのさ、母さん、話したい事があるんだけど」 | |
203 | ヨウコ | 「あら、じゃあすぐお夕飯にするからちょっと待ってってね」 | |
204 | キヨ | 「いや、今聞いて欲しいんだ。急ぎってわけじゃないけど」 | |
205 | ヨウコ | 「……キヨ君」 | |
206 | キヨ | 「なに?」 | |
207 | ヨウコ |
「机の引き出しにあったエッチな本の事なら気にしなくていいのよ?
男の子はそういうものだってわかってるつもりよ」
| |
208 | キヨ | 「な、なんの話だよ! そういうことじゃなくて、って言うか机の引き出し勝手に開けるなよ!」 | |
209 | ヨウコ | 「だったらちゃんと部屋の片づけしなさい」 | |
210 | キヨ | 「するよ! 休みの日にでもするから! いや、というかそんな話じゃないから」 | |
211 | ヨウコ | 「じゃあ何かしら」 | |
212 | キヨ | 「あのさ、母さんは前の会社を辞めることになってから、パートで働いてるよね」 | |
213 | ヨウコ | 「そうね。でもとりあえず繋ぎで、ちゃんとした就職先も探しているわ」 | |
214 | キヨ | 「それも簡単じゃないでしょ? だから、やっぱり僕は高校を卒業したら働こうと思って」 | |
215 | ヨウコ |
「あのね、キヨ君はちゃんと大学に入りなさい。
大学に入れるくらいは大丈夫だから、そんな心配はしないでいいの。
ちゃんとした仕事だってすぐに見つけるわ」
| |
216 | キヨ | 「でも、どちらにしたって決して余裕があるわけじゃないじゃないか」 | |
217 | ヨウコ |
「裕福とは言わないけど、キヨ君がそんな気を使うほどじゃないわ。
大学は行きなさい。でないと働くにしたって苦労するわ」
| |
218 | キヨ | 「高卒で働いてる人だってたくさんいる」 | |
219 | ヨウコ |
「それだと、働ける仕事や、働いた後に苦労することがいっぱいあるの。
私がそうだったから、キヨ君にはそんな苦労をさせたくないのよ」
| |
220 | キヨ | 「別にそんなことは苦労じゃない、母さんに負担かけてまで大学に行く方が嫌なんだ」 | |
221 | ヨウコ |
「そんな事は全然負担じゃないの。キヨ君が気にすることじゃないわ。
ほら、もうご飯作るからこの話は終わりにしましょ」
| |
222 | キヨ | 「でも、僕は……」 | |
223 | ヨウコ | 「いい加減にしなさい! ちゃんと学校を出た方が幸せになれるんだから、それ以外は認めません!」 | |
224 | キヨ | 「なんで人の幸せを勝手に決めつけるんだよ!」 | |
225 | ヨウコ | 「あなたはまだ子供なんだからわからないのよ! いいから言う通りにしなさい!」 | |
226 | キヨ | 「うるさい! 自分の事は自分で決める!」 | |
227 | ヨウコ |
「キヨ君! 待ちなさい、どこ行くの、キヨ君!
はぁ、また勝手な事を言い出して……。もう、しょうがないわね」
| |
228 | ト書き | Scene5 路上 | |
229 | BGM |
|
|
229 | SE |
|
|
231 | ヨウコ | 「キヨ君、どこ行ったのかしら……」 | |
232 | タケ | 「あれ? ヨウコさん!?」 | |
233 | ヨウコ | 「え、た、タケさん!?」 | |
234 | タケ | 「な、何してるですかこんなところで」 | |
235 | ヨウコ | 「いえ、その、タケさんこそ……」 | |
236 | タケ | 「俺はどこかで夕飯を食おうと思っていまして……」 | |
237 | ヨウコ | 「あれ、そういえばスーツじゃないんですね。お休みですか?」 | |
238 | タケ | 「いや、実は……、会社は辞めました」 | |
239 | ヨウコ | 「え? 辞められたんですか!? どうして?」 | |
240 | タケ |
「まぁなんというか、ちょっと疲れてしまって……。
それに、あの通り今後もどうなるかわからない会社ですし」
| |
241 | ヨウコ | 「そうですか……」 | |
242 | タケ | 「ヨウコさんは、その後どうしてました? その、お仕事とか……」 | |
243 | ヨウコ | 「……もし私の事を気にされてるのであれば、その必要はありません。あれは会社からの指示なわけですし」 | |
244 | タケ | 「いや、そういうわけじゃ……」 | |
245 | ヨウコ | 「それに、子供の関係で会社にも迷惑をかけてましたからね。仕方のない事だと思ってます」 | |
246 | タケ | 「いや、そんなことは……」 | |
247 | ヨウコ | 「タケさんは、今はお仕事は?」 | |
248 | タケ | 「今は何も。少し休もうと思いまして。独り身ですし、失業給付金だけでも何とかなりますから」 | |
249 | ヨウコ | 「そうですね。それがいいと思います。タケさんは働き過ぎでしたから」 | |
250 | タケ | 「あのくらい、平気ですよ」 | |
251 | ヨウコ | 「いつもそう言って無理ばかりしてるの、知ってましたよ。体を壊してからじゃ遅いんですから」 | |
252 | タケ | 「……ヨウコさん、あの」 | |
253 | ヨウコ | 「はい、なんでしょう?」 | |
254 | タケ | 「よかったら今度、一緒に食事でもどうですか? 色々と話もしたいなと思ってまして」 | |
255 | ヨウコ |
「……もし同情でそのようなことを仰っているのであれば、それこそ必要ありません。
子持ちの女に関わっていても、タケさんにとって何にもならないです」
| |
256 | タケ | 「そんなんじゃありません! 俺は、その……うわっ!」 | |
257 | ヨウコ | 「どうしました?」 | |
258 | タケ |
「いえ、電話が来ただけで……。え? 珍しいな、あいつからこんな時間に……。
すみません、ちょっと電話に出ます」
| |
259 | ヨウコ | 「あ、はい」 | |
260 | タケ |
「もしもし、こんな時間にどうしたんだ? ……え、今から? 構わないけど、何かあったのか?
……わかった。それならとりあえず会ってから話を聞くよ。ああ、俺もすぐにそこに向かうよ。
ああ、それじゃあ。
……すみません、用事が出来てこれから向かう事とになってしまって」
| |
261 | ヨウコ | 「いえ、お気になさらないでください。お時間取らせてしまって申し訳ありません」 | |
262 | タケ | 「そんな、こちらの方こそ……。あの、ヨウコさん以前職場で使っていた携帯は今も使ってますか?」 | |
263 | ヨウコ | 「ええ、プライベートと兼用でしたので」 | |
264 | タケ | 「それじゃあまた連絡しますので。それではまた」 | |
265 | ヨウコ |
「……変わらないなぁ。ああやって自分の事を後回しにして人の心配をするところ。
家庭事情で色々と気にかけてくれてたけど、これ以上あの人の優しさに甘えるわけにはいかないものね……」
| |
266 | ト書き | Scene6 公園 | |
267 | BGM |
|
|
268 | タケ | 「悪い、待たせたなキヨ」 | |
269 | キヨ | 「あ、先輩、すみません急に……」 | |
270 | タケ | 「構わないよ。お前から相談だなんて、珍しいからな」 | |
271 | キヨ | 「本当にすみません……」 | |
272 | タケ | 「気にするなって。で、どうした? 何かあったのか?」 | |
273 | キヨ | 「個人的な事なんですけれど……実は、かくかくしかじかで」 | |
274 | タケ | 「なるほどな、そういう事か」 | |
275 | キヨ | 「え? 今のでわかったんですか!?」 | |
276 | タケ | 「当たり前だ。伊達に三十路は過ぎてないのさ」 | |
277 | キヨ | 「そうですよね。先輩はちゃんとした大人ですし……」 | |
278 | タケ |
「いや、どうだろうな。会社なんかじゃこの歳でも上からはひよっこ扱いだぜ?
一体いくつになったら一人前扱いされるのやら」
| |
279 | キヨ | 「そういうものなんですか? それじゃ僕なんて、子供どころじゃないですよね……」 | |
280 | タケ |
「年功序列なんて流行んないけどな。結局はその人の人間性さ。
んで、そういうお前は母親とケンカして飛び出してきたわけだよな」
| |
281 | キヨ | 「はい……」 | |
282 | タケ | 「それで、お前は進学はしたくないのか?」 | |
283 | キヨ |
「したくないというか、そうすべきではないとうか。そこまでして大学に行きたいわけではないし。
それに、進学したからってそんなに何かが変わるとは思えないです」
| |
284 | タケ | 「なるほどね」 | |
285 | キヨ | 「何かやりたい事があって働きたいわけじゃないんですが、なんというか、その……」 | |
286 | タケ | 「うん」 | |
287 | キヨ | 「誰かの苦労や不幸の上で安穏と生きていくのが嫌なんです。そんな身勝手生き方なんてしたくないんです」 | |
288 | タケ | 「キヨの母親は、不幸なのか?」 | |
289 | キヨ | 「いや、不幸かどうかはわからないけど、楽ではないと思います」 | |
290 | タケ | 「お前は? 今、不幸か?」 | |
291 | キヨ | 「……少なくとも、こういう状況なら自分だけが幸福であってはならないって思います」 | |
292 | タケ | 「ふむ、難しいな」 | |
293 | キヨ | 「僕の考えは間違ってますか?」 | |
294 | タケ | 「いや、殊勝な考えだと思うよ。でも……」 | |
295 | キヨ | 「でも?」 | |
296 | タケ | 「それこそ身勝手な考えとも言えるな。人をないがしろにして自分の生き方を押し通そうしている」 | |
297 | キヨ | 「僕が身勝手、ですか」 | |
298 | タケ | 「人の気持ちを無視して自分が生きたいように生きてたら、それは身勝手と言えないか?」 | |
299 | キヨ |
「僕は、母を想っての事でもあるんですよ? それに、それなら自分の考えを人の生き方に押し付けてくる方が身勝手じゃないですか」
| |
300 | タケ | 「それはまぁ、親心ってやつだろうな。それだってお前を想っての事じゃないか」 | |
301 | キヨ | 「それは、そうでしょうけど……」 | |
302 | タケ |
「相手の事を思いやっていても、お互いの生き方や考え方がずれてるんだな。
自分の生き方や考え方があるってのはいい事だし、仕方のないことだよ」
| |
303 | キヨ | 「でもそれじゃあ僕はどうしたらいいんですか? 自分の考え方を曲げて従うしかないんですか?」 | |
304 | タケ | 「それをどうするかは、お前自身で考えないといけないことだよ」 | |
305 | キヨ | 「……すみません、そうですよね」 | |
306 | タケ |
「あんまり自分の考えにこだわると視野が狭くなるからさ、
相手が何を考えているのか、ってのをもっと考えてもいいんじゃないか?」
| |
307 | キヨ | 「はい……」 | |
308 | タケ | 「……自分を不幸にしても、誰も喜ばない」 | |
309 | キヨ | 「え?」 | |
310 | タケ | 「いやな、俺もそんなことを言われててさ」 | |
311 | キヨ | 「そうなんですか?」 | |
312 | タケ |
「ああ、まぁ俺も似たようなもんだってことかな。
それでお前はさ、母親に不幸になって欲しいと思うか?」
| |
313 | キヨ | 「そんなこと、思うわけないじゃないですか」 | |
314 | タケ | 「じゃあさ、母親はお前に不幸になって欲しいと思ってるかな?」 | |
315 | キヨ | 「いや、それは……」 | |
316 | タケ |
「でもお前の選択は、母親からみたら不幸になると思われている。
お前は、今の現状だと母親が不幸になるからその選択をしようとしている。
そりゃあ、話もこじれるよな」
| |
317 | キヨ | 「じゃあ、どちらかが考え方を変えないと解決出来ないですか?」 | |
318 | タケ | 「いや、変えるのは考え方じゃなくて……、視点かな」 | |
319 | キヨ | 「視点?」 | |
320 | タケ |
「そう、キヨは現状の解決手段として就職を選んだ。でもそれは、何かを諦めることで目的を達成しようとした、消極的な選択だ。母親の思いを無下にしてるのだから、そうだよな?」
| |
321 | キヨ | 「はい……」 | |
322 | タケ |
「そして、その手段を思いついてしまったから、それ以外の方法を考えられなくなっている。
でも、本当はもっと理想的な手段があるんじゃないかな」
| |
323 | キヨ | 「理想的、ですか?」 | |
324 | タケ |
「ああ、キヨが進学して、母親の負担が少なく、生活が安定すること。これらを全て満たすことが出来る方法」
| |
325 | キヨ | 「そうであれば、確かに理想的です。でもそんな都合の良い方法なんて……」 | |
326 | タケ | 「例えばだ、大抵の問題はお金があれば解決するんだろうけど、逆にお金がかからない方法はないか?」 | |
327 | キヨ | 「え、お金がかからない方法?」 | |
328 | タケ |
「目的の為の費用の捻出が難しいなら、費用を減らす方法を考えてみる。どちらか一つの方法だけでは 難しいなら、両方からアプローチしてみる。
それならどうだ?何かしらの方法はないか?」
| |
329 | キヨ |
「……そうか、お金をかけないというのなら、例えば奨学金を貰えばいいんだ。いずれ返すものだとしても、
その頃には母さんも別の仕事先が決まってるかもしれない。あるいは、母さんの再就職が決まれば……。
いや、僕がバイトして、お金を稼ぎながら奨学金をもらうことが出来るのなら、それでなんとかなるはずだ」
| |
330 | タケ | 「そう、そういう事だよ。何かしら方法はあるもんだ」 | |
331 | キヨ | 「でも、これって大変ですよね」 | |
332 | タケ |
「まぁな。でも誰かの考え方を変える必要もなく、誰にとっても理想的な結果になる。
なら後は、それに向けて覚悟を決めないとな」
| |
333 | キヨ |
「そうですね……。先輩、ありがとうございます。
僕は、自分で自分を追いつめてたんですね……」
| |
334 | タケ | 「心に余裕がなければ、そんな風になってしまうものさ。……多分、俺もそうだったんだな」 | |
335 | キヨ | 「え?」 | |
336 | タケ | 「俺もキヨと同じ状態だったかもしれないって思ってさ。俺も最善に向けて覚悟を決めないと」 | |
337 | キヨ | 「よくわからないけど、僕は先輩の事を応援してますね」 | |
338 | タケ | 「ありがとな。じゃあついでに、ちょっと聞いてもいいか?」 | |
339 | キヨ | 「なんでしょう」 | |
340 | タケ | 「確かお前って、母子家庭だったよな」 | |
341 | キヨ | 「ええ、まぁ」 | |
342 | タケ | 「あのさ、もしもなんだけど……。お前の母親が、再婚とかで男を連れて来たらどう思う?」 | |
343 | キヨ | 「とても気持ち悪いですね」 | |
344 | タケ | 「ひでぇなお前!」 | |
345 | キヨ |
「いや、別にかまわないんですが……。物心ついたときから父親はいませんでしたから。
別に父親が欲しいと思ったことはないです。でも、母が幸せならそれは良い事だと思います。
ずっと母が一人で僕を育ててくれて、感謝してます。だから、母には母の幸せも掴んで欲しい」
| |
346 | タケ | 「だったらなんで?」 | |
347 | キヨ | 「母親の女の姿って、想像すると気持ち悪くないですか?」 | |
348 | タケ | 「……確かに。うわ、気持ちわりぃなコレ」 | |
349 | キヨ |
「ですよね。でもまぁこれは単純に僕のわがままなんで、その時は我慢します。
むしろ、そうなって欲しいとも思いますよ」
| |
350 | タケ | 「そうか……。皆キヨみたいに考えてくれればいいんだけどな」 | |
351 | キヨ | 「微妙ですけど、先輩なら父親でも我慢しますよ?」 | |
352 | タケ | 「バカ野郎、いくらなんでもお前ほど大きい子供を持ってる歳の人じゃないっての」 | |
353 | キヨ | 「冗談です。それに、僕も何とかしなきゃです」 | |
354 | タケ | 「ん? 他にもまだ何かあったのか?」 | |
355 | キヨ | 「その、色々思うことがあって、一方的に彼女に別れてくれって言ってしまって」 | |
356 | タケ | 「ひでぇな。お前も賢しいようで思い詰めると極端だな」 | |
357 | キヨ |
「ええ、家の事情もあっての事だったんですけど……。
なんか、彼女は以前好きだった人をまだ引きずってる感じがして」
| |
358 | タケ | 「その手の事に関しては、俺は何も言えないな」 | |
359 | キヨ |
「いえ、大丈夫です。こっちも覚悟を決めました。理想的に考えるなら、
以前の人を忘れさせるくらいに好きになって貰えばいい。そう思うことにします」
| |
360 | タケ | 「自分で諭しておいてなんだが、急にポジティブになったな」 | |
361 | キヨ |
「いや、本当に一方的だったから、許してくれるかどうかわからなくて怖いですけど……。
でも、先輩のおかげで思いました。自分は意固地になりすぎていたんじゃないかって。
もっとちゃんと、自分の考えと気持ちを伝えなければならない、
その気持ちがあるのなら、言葉にしなければならないって」
| |
362 | タケ | 「気持ちがあるなら言葉に、か……」 | |
363 | キヨ | 「そう思います。だから先輩も、頑張ってください」 | |
364 | タケ | 「ああ、そうだな。じゃあ俺はもう行くよ。流石に腹が減った」 | |
365 | キヨ | 「本当に突然すみませんでした。ありがとうございます」 | |
366 | タケ | 「いや、こっちこそ色々思うところがあって感謝してるよ。それじゃあな」 | |
367 | キヨ | 「はい、気を付けて」 | |
368 | ト書き | Scene7 翌日・公園 | |
369 | BGM |
|
|
370 | ミキ | 「キヨ君」 | |
371 | キヨ | 「ミキさん、突然呼び出してごめん」 | |
372 | ミキ | 「ううん、また連絡くれると思わなかった。むしろあたしから連絡して呼び出そうと思ってたし」 | |
373 | キヨ | 「やっぱり怒ってるよね。あんなに突然で……」 | |
374 | ミキ | 「それより、聞かせて、どういう理由なのか。……あたしが嫌いになった?」 | |
375 | キヨ |
「ミキさんのことは、今でも好きだよ。ミキさんといると楽しくて、幸せだった。ずっと一緒に居たいと思った。
でも、色々悩んでいて、自分を追いつめてしまって……。
自分のために苦労してる人がいるのに、自分がこんな気持ちになっちゃいけないって考えてしまった。
だからって人を傷つけていいわけじゃないのにね……」
| |
376 | ミキ | 「……そっか」 | |
377 | キヨ |
「でも、ある人に言われて、それは違うってわかった。僕は僕の力で、僕の大事な人を幸せにしたい。
その為に僕は頑張らなくちゃならない。強くならなくちゃいけない。
ミキさん、僕はもう、昨日みたいなことは絶対にしない。
だからもし許してくれるなら、また君と一緒にいたい。僕は君を幸せにしたい」
| |
378 | ミキ |
「……ありがとう、嬉しい。……あのね、あたし、最初はキヨ君が、ずっと好きだった人に似てるなって思ってた。
その人の事を、キヨ君に重ねてた」
| |
379 | キヨ | 「……うん、そんな気はしてたよ」 | |
380 | ミキ |
「でも、昨日あんなこと言われて、辛かった、苦しかった。もっと一緒に居たいと思った。
あたしはキヨ君が好き。他の誰でもない、あなたが好き。だからお願い、私こそ一緒に居させて欲しい」
| |
381 | キヨ | 「もちろんだよ、僕も一緒に居たい」 | |
382 | ミキ | 「ごめんね、ありがとう……。でも、キヨ君」 | |
383 | キヨ | 「何?」 | |
384 | ミキ | 「悩んでたり、辛かったりしたら、必ず私にも言って。私だってキヨ君を幸せにしたいんだからね」 | |
385 | キヨ | 「……うん、そうだね。わかったよ、ありがとう」 | |
386 | ミキ | 「絶対だよ? ……ごめんね、もうバイトに行かなくちゃならないの。また連絡するからね」 | |
387 | キヨ | 「うん、僕も連絡するよ。それじゃあ、頑張って」 | |
388 | ミキ | 「うん、またね」 | |
389 | ト書き | Scene8 バイト先 | |
390 | BGM |
|
|
391 | ヨウコ | 「あら、ミキちゃん、ひょっとして彼氏さんとうまくいった?」 | |
392 | ミキ | 「え、わかりますか?」 | |
393 | ヨウコ | 「わかるわ。なんだか幸せオーラが溢れてるもの」 | |
394 | ミキ | 「全部、ヨウコさんのおかげです。本当にありがとうございました」 | |
395 | ヨウコ | 「ミキちゃんがいい子だからうまくいったのよ。ミキちゃんなら私の息子のお嫁さんに来てほしいくらいだわ」 | |
396 | ミキ | 「ヨウコさんの娘だったら私も嬉しいです。でもごめんなさい、今はもう彼氏以外は考えられないので」 | |
397 | ヨウコ | 「でしょうね。もっとも私の息子じゃミキちゃんには釣り合わないわ」 | |
398 | ミキ | 「そんなことないですよ絶対。それに、次はヨウコさんが頑張らないとですよね」 | |
399 | ヨウコ | 「私?」 | |
400 | ミキ | 「うん、ヨウコさんはきっと、好きになってくれる人が居ても自分から遠ざけてるだろうから」 | |
401 | ヨウコ | 「そ、そうかしら?」 | |
402 | ミキ |
「私、思ったんです。年下の男の子で、可愛いなぁってばかり思ってました。
でも、年下でも男の子の決意って凄く頼もしくて……。
私もしっかり支えられる女になろうって」
| |
403 | ヨウコ | 「そうね。男の子の真剣な言葉って、そうかもしれないわね」 | |
404 | ミキ |
「自分が信頼する人の言葉は信用出来るって、そう思います。
だからヨウコさんも、もう一度男の人の言葉を信じてみませんか?
少なくても今のヨウコさんなら、見る目は確かだと思います」
| |
405 | ヨウコ |
「……そうね。ミキちゃんが言うなら、きっとそうね。
そんな人が現れたら、今度はそうするわ」
| |
406 | ミキ | 「あ、でもヨウコさんには今もう好きな人がいるんでしたっけ?」 | |
407 | ヨウコ |
「……私のことを色々と気にかけてくれた人がいたんだけど、誰にでも気を使う人だから、
きっとそんな風には思われてないわ。もういい歳だしね」
| |
408 | ミキ | 「えー、そんなことないと思いますよ。ヨウコさんなら好かれないはずがないですよ」 | |
409 | ヨウコ | 「だといいんだけどね。ほら、ミキちゃんももう仕事に出ないと。頑張ってね」 | |
410 | ミキ | 「はい、ヨウコさん、本当にありがとうございました。お疲れ様です」 | |
411 | ヨウコ |
「お疲れ様、ミキちゃん。
好きな人、か……。ううん、きっとキヨ君も嫌がるだろうし。
それに私はキヨ君がちゃんと育ってくれさえすればいいの……」
| |
412 | ト書き | Scene9 ヨウコ・キヨ宅 | |
413 | BGM |
|
|
414 | ヨウコ | 「ただいま」 | |
415 | キヨ | 「お帰り」 | |
416 | ヨウコ | 「キヨ君、昨日は心配したんだからね」 | |
417 | キヨ | 「ごめん……。あのさ、そのことなんだけど」 | |
418 | ヨウコ | 「なに? なんと言っても、キヨ君は大学に行かなくちゃだめよ」 | |
419 | キヨ | 「うん、昨日はごめん。進学はする」 | |
420 | ヨウコ | 「え? どうしたの急に?」 | |
421 | キヨ | 「僕、母さんが辛い思いしてるのに、僕だけ幸せな生き方なんてしちゃいけないって思ってたんだ」 | |
422 | ヨウコ | 「キヨ君……。私は、全然辛い思いなんてしてないわ。キヨ君が幸せならそれが一番なの」 | |
423 | キヨ | 「母さん、それは僕も同じだよ。母さんが幸せで居てくれるなら、大学なんて行かなくたって別にいいんだよ」 | |
424 | ヨウコ | 「で、でもキヨ君」 | |
425 | キヨ | 「でも、そういう考えはやめた」 | |
426 | ヨウコ | 「え?」 | |
427 | キヨ |
「自分も幸せになって、他の人も幸せにする。努力っていうのはその為にしなきゃならないんだ。
難しい事だとは思うけど、僕はそのために頑張りたい」
| |
428 | ヨウコ | 「キヨ君……」 | |
429 | キヨ | 「だから、母さんも幸せであって欲しいんだ。例えば、再婚とか」 | |
430 | ヨウコ | 「キヨ君……やっぱり、お父さんがいて欲しかった?」 | |
431 | キヨ |
「そういうわけじゃないんだ。居ないのが当たり前だったし、母さんさえ居ればいい。
別に無理して再婚して欲しいってわけじゃなくて、母さんには母さん自身が幸せになることをして欲しい。
じゃないとやっぱり、僕の為だけに苦労する母さんの姿を見て僕は幸せになれない」
| |
432 | ヨウコ | 「そう……、キヨ君にはそう見えてたのね。でも、そうね。これじゃあキヨ君を不安にさせちゃうのね」 | |
433 | キヨ |
「ずっと反対されてたけど、バイトもする。勉強も決して手を抜かない。
だから、母さんもそんなにパートを詰め込まないで、仕事探しや自分の為の時間を作って欲しい」
| |
434 | ヨウコ |
「……今までね、辛いなんて思ったことは本当にないの。
たくさん働いて、自分の事なんて何もなくても全然平気だった。
だけど、キヨ君がもうこんなにしっかりしてるんなら、私も私の為に頑張らせてもらうわ。キヨ君の為にも」
| |
435 | キヨ | 「うん、僕も頑張るよ」 | |
436 | ヨウコ | 「ありがとうね、キヨ君。ふふ、それじゃあ今日はちょっと気合を入れてご飯っちゃおうかしら。……あら?」 | |
437 | キヨ | 「どうしたの?」 | |
438 | ヨウコ |
「なんでもないわ。こんな時間に珍しく電話が来たから……え?
もしもし。はい、大丈夫ですよ。え、今からですか? え、ええ、わかりました。
いえ、大丈夫ですよ。すぐ向かいますから。それじゃあ」
| |
439 | ト書き | Scene10 公園 | |
440 | BGM |
|
|
441 | ヨウコ | 「お待たせしました」 | |
442 | タケ | 「すみません、ヨウコさん。突然こんな時間に呼び出してしまって」 | |
443 | ヨウコ | 「いえ、構いません。でもどうしたんですか?」 | |
444 | タケ | 「ヨウコさんにどうしても伝えたいことがあって」 | |
445 | ヨウコ | 「は、はい」 | |
446 | タケ | 「俺はヨウコさんのことが、好きです」 | |
447 | ヨウコ | 「え、ええ?」 | |
448 | タケ |
「前のあの仕事も、確かに辛かったです。
でも一番辛かったのは、いつもの机にヨウコさんの姿が居なくなってしまった事でした。
だからきっと、俺にはあそこで働く意味なんてなくなったんです。
昨日、偶然会えたときは本当に嬉しかった。
そして、やっぱりヨウコさんが好きだって事を実感したんです。
だからこの気持ちをあなたに伝えたかった」
| |
449 | ヨウコ | 「でも、私は子供いるし……」 | |
450 | タケ | 「関係ありません。ヨウコさんのお子さんであれば、その子とも俺は一緒に居たい」 | |
451 | ヨウコ | 「それに、若くもないし……」 | |
452 | タケ | 「それこそ関係ありません。というか、俺より少し上なだけじゃないですか。なんの問題もありません」 | |
453 | ヨウコ | 「……なんの問題も?」 | |
454 | タケ | 「ありません」 | |
455 | ヨウコ | 「……でも、子供に紹介するときに無職だっていうのは、問題じゃないですか?」 | |
456 | タケ | 「うっ、そ、それは……。いや、すぐにでも職を探します! 決してヨウコさんには苦労をかけません!」 | |
457 | ヨウコ | 「ふふっ、冗談ですよ。お仕事はゆっくり休んでから、じっくり探してください。それまでは私が養ってあげますよ?」 | |
458 | タケ | 「いや、そういうわけには……。え、そ、それって、つまり……」 | |
459 | ヨウコ | 「……ありがとうございます。嬉しいです。こんな私ですが、どうかよろしくお願いします」 | |
460 | タケ | 「あ、ありがとうございます! こ、こちらこそよろしくお願いします!」 | |
461 | ヨウコ | 「あの、今日はもう子供の夕飯を作らないといけないので、またお会いしてください」 | |
462 | タケ | 「あ、はい。すみません、こんな時間に」 | |
463 | ヨウコ | 「大丈夫です。また、連絡しますね」 | |
464 | タケ |
「はい、気を付けて。
……夢じゃない、よな?」
| |
465 | ト書き | Scene11 公園 | |
466 | BGM |
|
|
466 | SE |
|
|
468 | ミキ | 「タケ兄」 | |
469 | タケ | 「あ、ミキか」 | |
470 | ミキ | 「どうしたの、またこんなところで。それになんだか嬉しそうだね。いい事でもあった?」 | |
471 | タケ | 「ちょっとな。それにお前も、なんだか幸せそうな顔してるな」 | |
472 | ミキ | 「まぁね。そういう事があったのさ」 | |
473 | タケ | 「そうか。よかったな」 | |
474 | ミキ | 「うん、よかった。タケ兄も、よかったね」 | |
475 | タケ | 「ああ、よかった。……なぁ?」 | |
476 | ミキ | 「何?」 | |
477 | タケ | 「何故かはわからないんだけど、今の俺のこの幸福は、お前のおかげな気がしてならないんだよ」 | |
478 | ミキ | 「そうなの?」 | |
479 | タケ | 「そうなんだよ。全然関係ないはずなのに」 | |
480 | ミキ | 「そっか。実はね、私も、私の幸せはあんたのおかげな気がする」 | |
481 | タケ | 「そうなのか?」 | |
482 | ミキ | 「そうなんだ。全然関係ないはずなのにね」 | |
483 | タケ | 「でもなんだか、今の状況は色々な人が支えてくれたって気がするんだ」 | |
484 | ミキ | 「そうだね。きっと自分の知らないところで、こうなる形を作ってくれた人がいる気がする」 | |
485 | タケ | 「なら、この気持ちは言葉にしないとな」 | |
486 | ミキ | 「そうだね。それがいいね」 | |
487 | タケ | 「感謝の気持ちを、形に」 | |
488 | ミキ | 「感謝の気持ちを、言葉に」 | |
489 | タケ | 「ありがとう」 | |
490 | ミキ | 「ありがとう」 | |
491 | BGM |
|
|
492 | ト書き | 終わり | |